自動翻訳技術の進歩で、語学研修は不要になるか?
私が個人的に愛用している「Google翻訳」も、数年前まで直訳ベースで不自然な翻訳を返してばかりだったのが、現在はかなり自然な日本語に翻訳してくれます。
このような状況を踏まえると、将来的には語学に苦労しなくても海外の方とコミュニケーションが取れるようになるのでは、と思わず淡い期待をもってしまいます。
もしかしたら、企業の語学研修も不要になる…!?
しかし、ことはそう簡単にはいかないようです。
Rosetta Stoneのヨーロッパ地域担当パノス・カニオティス(Panos Kraniotis)は、人事・教育担当者向けの英国Webメディア「Training Journal」で、どんなに自動翻訳技術が進んでも、人間が語学スキルを身に着ける必要性はなくならないと述べています。
言語は主観的なものです。人は声のトーンや言葉遣い等の要素も駆使して自分の意思を伝え、相手の意思をくみ取ろうとします。このような微妙なやり取りには、技術がむしろ障壁となることがあります。
自動翻訳の助けを借りて話したり聞いたりできるかもしれませんが、言葉の背景にある細かい意味まで理解できるでしょうか。
機械による翻訳には、自分や相手が伝えたい文脈、言い回し、ニュアンスが含まれません。さらに容易に他の言語に翻訳することができないような、その言語固有のフレーズや言葉もあります。
それらは、人間が都度学ぶ必要があるということです。翻訳アプリケーションは短期的な解決策としては適しているかもしれませんが、間違いや誤解を招く可能性も秘めています。ビジネスにおいては、ビジネス環境を壊滅させたり交渉を悪化させたりするような誤解を招く原因になり得ます。
そして、社員の語学スキルを育成することによる企業のメリットを強調します。
競争が激化する今日の世界市場では、外国語を話せる人材がいない企業は不利になります。
外国語を話せる社員は、海外の顧客、同僚、サプライヤーとより多くコミュニケーションを取ることができます。より高品質な交渉と販売機会の増加につながるだけでなく、顧客との信頼関係を構築します。社員の語学スキル育成への投資は、生産性の改善、優れたチーム間コラボレーション、従業員の職場満足度とモチベーションの向上にもつながります。
語学習得の苦労なしで、海外の人とコミュニケーションできる―とても魅力的ですが、間違いや誤解のない円滑なコミュニケーションのため、また現代の激しい企業間競争を生き抜くために、人間自身の努力は引き続き欠かせない、ということですね。
とはいえこれから数十年、数百年と経過すれば、自動翻訳技術が役割を持てる範囲はどんどん広がっていくように私は思います。
例えば冒頭で触れた「Google翻訳」は、利用者による翻訳作業の内容をデータとしてシステムに蓄積、解析し翻訳結果に反映させることで精度を高めています。
今後さらに人間の翻訳ノウハウの蓄積と解析が進むことで、文脈を踏まえて翻訳したり、特定の言語特有の単語を他の言語にわかりやすく翻訳したりといった、人間が行うような翻訳に限りなく近づけるのではないかと思います。
しかしどんなに発達しても、自動翻訳はあくまで「ツール」です。大切なのは、利用する人間がメリットとデメリットを理解した上で、使いどころを判断することです。
自動翻訳の結果をどこまで信頼するか。語学力の鍛錬を通して、このセンスも磨くことができるのではないでしょうか。
「Training Journal」の記事の原文は、こちらです。
“Translation technology: Can it bridge the language skills gap?”
http://www.trainingjournal.com/articles/opinion/translation-technology-can-it-bridge-language-skills-gap